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札幌地方裁判所 昭和55年(わ)414号 判決 1980年12月24日

被告人 太田悟

昭二四・四・一四生 露店商

主文

被告人を懲役一年に処する。

未決勾留日数中二一〇日を右刑に算入する。

訴訟費用の証人増田直記に関する分はその三分の一を被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、暴力団全花又連合会松山分家奈良忠一の実子分であり、同連合会青年隊の副隊長をしているものであるが、同隊の隊員である木内則夫、澁谷将人の両名が、昭和五五年四月一五日午前零時四五分ころ、札幌市中央区南五条西六丁目九番地所在のニユー桂和ビル九階クラブ「ミスターダンデイー」の待合室であるスナツク「のうたりん」において、増田直記(当時三二歳)に対し、こもごも手拳で同人の顔面、背中等を数回殴打し、同人の腹部や足等を数回足蹴りする等の暴行を加えたことの概況を認識のうえ、右暴行に加担する意思を持つて、木内則夫、渋谷将人及び木内悟と共謀のうえ、右暴行に引き続いて、同日午前一時ころから同日午前二時ころまでの間、同市同区南六条西二二丁目所在の全花又北海道連合会事務所一階及び二階において、木内則夫、澁谷将人及び木内悟が、右増田直記に対し、こもごも手拳でその頭部、肩、背中等を多数回殴打し、その腹部、背中等を多数回足蹴りし、更に所携の棒状の物で同人の頭部、背中、肩等を多数回殴打する等の暴行を加え、右一連の暴行によつて、同人に対し加療約二週間を要する頭部等打撲傷の傷害を負わせたものである。

(証拠の標目)(略)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人が、木内則夫、澁谷将人(以下澁谷という)及び木内悟と共謀したことはないから無罪であり、仮に右共謀の事実が認められるとしても、被告人が共謀に加わつた後の暴行の範囲内で刑事責任を負うにとどまる旨主張するので、以下検討する。

関係各証拠(争いのある事実については特に証拠を掲げる)によれば、被告人は暴力団全花又北海道連合会松山分家奈良忠一の実子分であり、同連合会青年隊の副隊長であること、判示のニユー桂和ビル九階のクラブ「ミスターダンデイー」の待合室であるスナツク「のうたりん」において、右連合会青年隊の隊員澁谷及び同木内則夫は、本件被害者の増田直記(以下増田という)の応答態度に立腹して、同人に暴行を加えたところ、同人がこれに反撃したため、木内則夫は同ビル内から右連合会事務所(以下事務所という)に、「ニユー桂和ビルのミスターダンデイーというところで、ヤクザ者らしい者ともめているから応援を頼む」との電話を入れたこと(証拠略)そのころ被告人は、知人と共に札幌市内のやき鳥屋にいたが、同所から事務所へ電話をしたところ、木内則夫から右のとおり連絡を受けていた事務所の当番の者から、「組の者がニユー桂和ビル九階で同業者のような者ともめているから行つて欲しい」旨連絡を受けたため、直ちに右やき鳥屋から右の「ミスターダンデイー」の待合室であるスナツク「のうたりん」に赴いたこと、被告人が右スナツク「のうたりん」に到着した際、同所には右木内則夫、澁谷及び増田がソフアーに座り、澁谷らと増田が口喧嘩をしていたこと(証拠略)、その際、増田の衣服は破れ(証拠略)、ひつかき傷などがあつたこと(証拠略)、同所において被告人は増田に対し、「ここでは店に迷惑がかかるから外で話をしよう」と告げ、増田を同所から外へ連れ出し、同人を事務所の当番の者が運転してきた自動車に乗せ、更に被告人及び澁谷もこれに乗り込み、事務所まで同行したこと、右自動車の車中で増田が澁谷に対し「喧嘩するなら一対一でもいいぞ」などと言つていたこと、ニユー桂和ビルから事務所までの距離は約二・五キロメートルであり、自動車による所要時間は約一〇分間であること、事務所一階において増田を被告人の正面に正座させ、増田の左右、後方に木内則夫、澁谷及び木内悟が立つて増田を取り囲み、被告人において、増田に対し、「のうたりん」におけるもめごとの原因を尋ねたところ、増田が「この二人が常識のない事を言つて来たのでもめたんだ、詳しいことはその人達から聞いたらいいだろう」と答え反抗的態度をとるや、澁谷と木内則夫は立腹して、木内則夫の弟である木内悟と共に、被告人の正面に正座している増田に対し手拳でその頭部、肩、背中等を数回殴打し、その腹部等を数回足蹴りするなどの暴行を加えたこと、右澁谷らの暴行が一旦収まつたので、被告人が増田に対し、「お前は稼業の者か、どこの者か」と尋ね、同人が「こんなものに関係がない」と答えると、被告人が更に「お前稼業に関係ないなら、なぜそんなにつつぱるのだ。」と尋ねたところ、増田が「二人の態度が悪すぎた」と答えたことから、再び澁谷、木内則夫及び木内悟は、前同様被告人の正面に正座して応答していた増田の頭部、背中等を手拳で数回殴打し、更に同人の腹部、背中等を足蹴りするなどの暴行を加えたこと、これを見た被告人は増田に暴行を加えた右三名に対し、「やるなら二階でやれ、一階はやばい」と指示したこと(証拠略)、これを受けた、木内則夫、澁谷、木内悟の三名は増田を事務所二階に上げ、同所において、右三名は、更に増田に対し、手拳でその頭部、腹部を数回殴打し、更に所携の棒状の物で、同人の頭部、背中等を多数回殴打するなどの暴行を加えているが、その際、事務所一階から上がつて来た被告人は、増田に右のような暴行を加えている右三名に対し、「どこのノレンをくぐつているかわからないから余りひどくはやるなよ」と指示していること(証拠略)、その後、右三名がしばらく暴行を続けたのち、被告人は右三名に対し、「もうこのへんでやめれ」と言つて制止したこと、増田は、木内則夫及び澁谷から「とにかくお前が悪いんだから兄貴達に謝つて行け」などと命じられ、被告人に対し謝罪していること(証拠略)、その後被告人は、増田に対し「ここであつたことは誰にも言うな、警察や稼業の者にも言うな」と口止めをしたうえ、同人を帰宅させていることその二、三分後、被告人は事務所を出て前記やき鳥屋に戻つて行つたこと等の諸事実が認められ、右各認定事実に反する証拠は、関係証拠との整合性の欠如、内容の不合理性等に照らし信用し難い。

以上認定の諸事実によれば、被告人は、事務所の一階において、増田に対し「のうたりん」におけるもめごとの原因を尋ねた時点において、増田の衣服の乱れ、これまでの言動、態度等及び木内則夫、澁谷の言動などから、木内則夫、澁谷の両名が右「のうたりん」において増田に対し、判示の暴行を加えたことにつき、少なくともその概況を認識していたものと認められる。

また、「のうたりん」における澁谷及び木内則夫の増田に対する暴行は、増田の右澁谷に対する応答態度に立腹して行われたものであるが、その後、被告人らが増田を事務所に同行した理由は、増田に対し同人の右態度についての謝罪を要求し、これに応じない時は更に暴行を継続するためであつたのであり(証拠略)、事務所における暴行は、増田が前記態度について謝罪せず反抗的態度をとつたことから再び行われたものであり、「のうたりん」における暴行と事務所における暴行との間には、その動機、犯意において継続性、一連性があるほか、前記のような「のうたりん」と事務所の場所的、時間的近接性等を総合すると、「のうたりん」における暴行と事務所における暴行とは、一連の暴行として包括的一罪を構成するものと認められる。

更に、前記のような被告人と木内則夫、澁谷との暴力団組織内における地位、身分関係、被告人が「のうたりん」へ赴いた経緯及び同所から増田を事務所に同行した理由、事務所において被告人が増田に対し「のうたりん」でのもめごとの原因を尋ねた後の事態の推移状況、及びその間における被告人の木内則夫、澁谷らに対する指示の内容、被告人が事務所二階における暴行を制止した状況、暴行終了後被告人が増田に対し口止めをした状況を総合して判断すると、事務所一階において、被告人が増田に対し「のうたりん」でのもめごとの原因を尋ねていた時点において、被告人と木内則夫、澁谷、木内悟との間で増田に対して暴行を加えることの共謀が成立したものと認められる。

更に、被告人は、「のうたりん」における木内則夫、澁谷による増田に対する暴行の存在を認識のうえ、更にこれと包括される一連の同人への暴行に介入加担する意思で木内則夫、澁谷、木内悟と共謀し、その共謀に基づき、事務所一階及び二階において、増田に対し暴行が加えられたのであるから、このような場合、被告人は、共謀関係介入への加担の時点より前に他の共犯者らがすでに被害者に対してなした暴行についても、承継的に共謀共同正犯としての罪責を負うと解するのが相当である。

従つて、増田の判示傷害が被告人の共謀関係への介入加担の前後いずれの時点の暴行によつて生じたかの点は、本件全証拠によつても不明であるが、被告人としても傷害罪の罪責を免れ得ないものである。

以上により、弁護人の主張はいずれも採用しない。

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法六〇条、二〇四条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、刑法二一条を適用して未決勾留日数中二一〇日を右刑に算入し、訴訟費用の証人増田直記に関する分の三分の一を刑事訴訟法一八一条一項本文により被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、暴力団の幹部である被告人が、輩下の暴力団構成員から暴行を受けていた被害者を暴力団事務所に連れ込んだうえ、右構成員らと共謀して判示のような執拗、強度な暴行を加え判示傷害を負わせたというものであり、右犯行態様に照らすと暴力団特有の極めて悪質な事案である。また、被告人の犯行加担の動機にも酌量の余地がないばかりか、実行行為に加わつていないとはいえ、組織内における被告人の地位に鑑みると、被告人の犯情は、他の実行行為担当の共犯者らより軽いものとは認められないこと、更に、被告人は、昭和五四年九月一一日札幌地方裁判所において、銃砲刀剣類所持等取締法違反(日本刀不法所持)の罪で、懲役一年、三年間執行猶予に処せられ(同月二六日確定)、僅か約半年余にして本件犯行に及んでいること、その他に本件と同種前科二犯を有すること、本件被害者に対し被告人として何ら慰藉の措置を講じておらないこと、改悛の情が認め難いこと等の諸事情に照らすと、被告人の刑事責任は誠に重いと言わねばならない。

しかしながら、被害者の受傷の程度が重傷とまでは言えないこと等被告人に有利な事情をも斟酌のうえ、主文のとおり量刑する。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥田保 仲宗根一郎 橋本昌純)

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